バスケットボール研究


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バスケットボールで予測能力を高めるということ

 

茨城大学 加藤敏弘

(2001年5月17日執筆)

 

 バスケットボールは、相手との「かけひき」を楽しむスポーツです。当然、麻雀を行っている時のように、相手の心理状態を予測することなどが大切になりますが、狭いコートの中を敵味方が入り乱れて、めまぐるしく展開するバスケットボールのゲームでは、いったい誰とどのような心理的な駆け引きをしたらよいのか、よくわからないのが現実です。

 よく「状況判断能力」という言葉が使われます。この能力は先天的なもので練習によって培われるものではなく、ごく限られた選ばれた人にだけ備わっている特殊な能力であるかのように、言われることがあります。「あの選手にはセンスがあるなぁ」などと言う場合、「自分にはない能力があって、うらやましいなぁ」という、なかばあきらめムードで語られることが多いのではないでしょうか?

 確かに人はみんな違います。姿形ばかりでなく考え方も過去の経験も違います。そんな中で、「どうしてあの場面であんなプレイができるのか」と目を見張るようなプレイが展開されると、やはり、自分とは違う特殊な能力があると思えてしまうのも無理はありません。実際、どんなに逆立ちしたところで絶対にかなわないと思わせられてしまうことも多々あります。

 しかし、そこであきらめてしまってよいものでしょうか?それぞれの人にはそれぞれのよさがあります。その人なりの能力を自ら少しでも開発することができたら、それはそれですばらしいことではないでしょうか?

 さて、この「状況判断能力」ですが、これをその人なりに高めていくために、どのようにしたらよいでしょうか?実はいくつかの方法があるのですが、どのようなレベルの人でも必ず当てはまる共通の方法があります。それは、「予測する能力」を高めることです。こう聞くとますます難しいことのように思われてしまいますね。でも、実は簡単なことです。

 ちょっと先に起こるであろうことを予測する能力というのは、まるで未来を予知することができる時間的な能力であるかのように思われます。しかし、時間は距離に置き換えることができるのです。

 バスケットボールのゲームでは、確かに敵味方が入り乱れて複雑な動きがめまぐるしく展開されます。しかし、ゴールは動きません。そして、何と言ってもボールは1つしかないのです。しかも、それぞれのチームが交互に24秒以内に攻撃を完了しなければならないので、必然的にボールは2つのゴールの間を行ったり来たりします。ということは、当然次に起こるであろうことは、実はいくつかしかないのです。

 先ほど時間は距離に置き換えることができると申しました。これは、まさに「ボールのある位置からどれだけ遠くに意識を及ぼすことができるか」という距離の問題としてとらえることができるのです。例えば、相手にシュートを決められたとします。その瞬間に決められたチームの人たちの意識が自分が攻撃するゴールにおかれていれば、すぐさまボールはエンドラインからスローインされて、相手チームより早くボールが運ばれ、速攻に結びつくでしょう。ですから逆にシュートを決めたチームの人たちは、シュートが決まった後のことを予測して「セーフティ」を置いておくわけです。

 特にディフェンスの時、ボール保持者についているディフェンダーは比較的緊張しながらボール保持者の次のプレイを予測することに全力を傾けます。しかし、本当はボールから一番遠いところにいるディフェンダーが一番神経を使って、ボール保持者が何をしようとしているのか?に意識を及ぼさなければなりません。仮にボール保持者が逆サイドにボールを展開するとします。当然遠くの味方プレイヤーにパスされるわけですから、ボールの移動には時間がかかります。一番遠くにいるディフェンダーがこのパスに備えていれば、そのパスをインターセプトする可能性が高くなるのは、当然のことでしょう。つまり、時間は距離に置き換えることができるのです。

 チームディフェンスができているチームというのは、実はこのようにボールから一番遠い人がどれだけボール保持者の次のプレイを予測しているか?あるいは、ボール保持者に対するディフェンダーがどれだけボール保持者の次のプレイの範囲を狭め、ボールから一番遠いディフェンダーが予測しなければならない展開を絞り込ませるか?ができているチームなのです。

 よく、シュートが入った後、「やったー」と喜んだり、「くそぉー」と悔しがっている人を見かけますが、バスケットボールのゲームでは、1つのシュートが入ったぐらいでいちいち喜んだり悔しがったりしていてはいけません。サッカーのように1本のシュートに運命がかかっているゲームとは違い、40分間の中で繰り広げられる数多くの攻防のトータルで勝敗が争われるのです。シュートが放たれた瞬間には、次のリバウンドボールに備えなければなりませんし、仮にそれが入ったとしても、すぐに次の攻防が待っているのです。ボールから遠くにいると、ついつい自分とは関係がないと思ってしまう人がいるようですが、実はボールから遠ければ遠いほど次に起こるであろう展開に準備しておかなくてはなりません。

 最後に一つ付け加えておきます。指導者の方は、ご自分が意識できる距離が広いのに比べ、指導している選手の意識がなかなか広がらないことにイライラしてしまうことがあります。しかし、よく考えてみてください。ご自分が小学校の時に過ごしたあのグランドの広さと、今その小学校を見た時のグランドの広さは、あきらかに違いますよね。つまり、視点が低ければ当然広く見えますし、視点が高ければ狭く見えるのです。さらに、人間は自分がボールを投げて届くであろう範囲までしか意識が及びません。つまり、いくら先を意識しろと言っても、そこまでボールを投げる能力が身に付かない限り、そこまで意識を及ぼすことはできないのです。これは、当然ディフェンスの時にも当てはまります。自分がパスを投げても届かない距離から放たれたパスが自分の頭を越えて行くなんてことは想像できないのです。こどもたちの視点と能力に合わせて、一人ひとりの選手が意識できる範囲のほんのちょっとだけ先に目を向けさせてあげてください。そうすれば、少しずつ意識が広がっていくはずです。