茨城大学教育学部紀要(教育科学)第47号,pp.305-325,1998.
 
 
ピックアップ・ゲームの意義と役割
−ロスアンジェルス市民のバスケットボール活動の事例から日本のスポーツ活動を考える−
 
加 藤 敏 弘**
(1997年10月13日受理)
 
 
Meaning and Role on Pick­Up Game in Basketball at Los Angeles
 
Toshihiro KATO**
(Received October 13,1997)
 

 *本研究にあたり,文部省在外研究員としてUCLA Basketball Office(アメリカ合衆国ロスアンジェルス市)より支援を得た。記して謝意を表する。
**茨城大学教育学部総合教育教室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1)
 
 
はじめに
 
 現在,日本におけるスポーツ活動は変革期にある。保健体育審議会が平成9年6月24日にまとめた「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」によると,我が国は,高齢者人口の増加と少子化等が相まって,世界にも類のない勢いで急速に高齢化が進展するなど,21世紀を目前に迎えて大きな社会変化のさなかにある。このような状況をふまえて,同審議会は,@社会変化に対応した児童生徒等の心身の健康の基礎づくりに関する施策の基本的在り方,A生涯の各時期に応じてスポーツに親しむことができる条件整備の方策,B今後の我が国の国際競技力の向上方策を主な検討の視点とし1),学校,家庭,地域社会においてそれぞれが密接な連携を保ちながら,従来の学校体育や運動部活動,社会におけるスポーツ活動の見直しが必要であるとしている。現時点ではまだ最終答申が示されていないが,社会体育指導者の育成事業の推進状況などをみても,今後,地域のスポーツ活動が国民生活の重要な部分として機能すべく,関係各方面でさまざまな具体的な改善策が講じられるであろう。
 本研究は,こうした状況にある日本のスポーツ政策を考えるにあたって考慮すべきことがらを,ロスアンジェルス市で行われているバスケットボールのピックアップ・ゲームを通してとらえていこうとするものである。そもそもピックアップ・ゲームとは何か,そのピックアップ・ゲームがアメリカの人々のスポーツ活動にどういう価値や重要さを持っているのか,アメリカに住む人々の生活習慣や価値観と日本のそれとの違いは何か,そのことがピックアップ・ゲームのルールやシステムにどのように反映されているのか,さらにそのことが人々のスポーツ活動へどのような影響を与えているのかを明らかにする。
 
 
ピックアップ・ゲームとは何か
 
1.アメリカの状況
 ピックアップ(pick­up,pickup)という用語を辞書で調べると,形容詞として「(口語)<料理など>あり[間に]合わせのもので用意した,即席の;<チーム・楽団など>寄せ集め式に作った,急ごしらえの:a 〜 meal あり合わせ[即席]料理/a 〜 ballgame 寄せ集めのチームでする野球.2)」とある。もちろん動詞「pick」に「up」がつくともっと幅広い意味を持つのだが,本研究で取り上げるピックアップ・ゲームに最も近いのは,この口語の説明だろう。ただし,なぜ「ballgame」を「野球」と翻訳したのかは疑問の残るところである。翻訳者が日本人にわかりやすいように「草野球」をイメージしたのかもしれない3)。ところが,その当時も今もアメリカの人々に「ピックアップ・ゲーム」と言うと99%の人がバスケットボールのことを思い浮かべる。確かに「PICK­UP GAMES」という著書には,各種スポーツ延べ266種類ものピックアップ・ゲームの方法が紹介されているが,その著書の序を見ると,著者が幼い時に行っていたバスケットボールのピックアップ・ゲームがその著書を著す原点にあることが述べられている4)
 アメリカで人気の高いスポーツとして,野球,アメリカンフットボール,バスケットボールがあげられるが,ピックアップ・ゲームとしてもっとも広く普及しているのはバスケットボールである。バスケットボールは,他の2つの人気スポーツと違い特別な用具と多くの人員を必要としない。1つのボールと1つのゴールさえあれば,2人から気軽にプレイが行える唯一のスポーツであり,しかもその活動が正式なバスケットボール競技のトレーニングにもなる。
 なお,本研究は,著者が文部省在外研究員派遣事業により1996年8月より1997年5月まで滞在したロスアンジェルス市UCLAにおいて,日々のできごとや感想を綴ったフィールド・ノートとUCLA Basketball OfficeやWooden Centerより収集した資料をもとに考察を加えたものである。
 
2.日本の状況
 日本では,1990年頃になってやっと同様の活動が「ストリート・バスケットボール」という名称で注目されるようになってきた。衛星放送でNBAの放映が始まり,マイケル・ジョーダンというスーパー・スターが日本でも一般に人気を集め始めた頃である。1972年から発行されている『月刊バスケットボール』の1990年9月号に同誌のキャンペーンとして「盛り上げよう 日本のバスケットボール」という記事がある5)。これは読者へのアンケートの結果と意見をもとに書かれたもので,その一説の読者の意見に「あのアメリカのように,STREET BASKETBALLをどこかでできないものか。年齢制限なしで,だれでも参加できるのがいいな」とある。また,「メジャーにするためには,もっと底辺を広くして,町や市や県などをあげてバスケットを盛り上げればいいと思います。例えば,町の中,1km間隔でコートがあるとか,家にリングとボードを付けて気軽に3対3ができるとか・・・・」「アメリカみたいに,公園とか空地にひとつでもいいからゴールポストを立てれば,遊びでバスケットをする人が多くなり,そこからバスケットに興味を持つ人が多くなるのでは?」という意見も同時に掲載されているのである。これらのことから,当時ようやく日本に「ストリート・バスケットボール」という用語が入ってきて,アメリカの公園などで行われているピックアップ・ゲームがイメージされていたようである。また,初めて同誌の広告に自宅に備えつけられる本格的なバスケットボールのゴールが紹介されたのは,この記事の翌年の1月号であった6)。一説によれば,日本でのストリート・バスケットの発祥は,1991年10月とされている7)。「空にボールのような丸い月が出ている深夜の1時,バスケットが死ぬほど好きな少年たち数人が,駒沢公園に集まった。彼らは自分たちで作ったバスケットリングを,こっそり公園の壁に取り付け,そのリングのバックボードに,ROCKERSとペイントした。駒沢ロッカーズ,ストリートバスケットの始まりである。8)
 このストリート・バスケットは,日本ではその後3on3大会として発展した。1992年のバルセロナ・オリンピックでのマジック・ジョンソン選手率いるUSドリーム・チームの活躍は,日本のバスケットボール人気に火をつけた。安価な組立式のバスケットゴールが次々とアメリカから直輸入され,多くの人が空き地や庭に設置した。そこに目をつけたスポーツ関連企業がこぞって3on3大会を後援したのである。日本ではストリートで行う3on3の競技会として,固定したチームを作って参加申し込みをしてゲームを行う。もちろん,アメリカでも3on3大会はある。ただし,ピックアップ・ゲームに飽き足らない人々が特別に参加する催しとして存在している。
 1987年,日本にハーフコートで行うピックアップ・ゲームの方法が紹介されていた9)が,日本のバスケットボール愛好者の間には定着しなかった。結局,このストリート・バスケットの3on3が競技会として発展した時点で,アメリカで一般に広く行われているピックアップ・ゲームとは異質のものになってしまった。つまり,「ピックアップ」の原点である「その場で寄せ集めたチームでゲームを行う」方式は定着せず,外見のイメージだけが模倣されたのである。3on3大会は,テレビでその様子が放映され,ストリート・バスケット専用コートを備えた店を各地に登場させた。しかし,若者のファッションの一部として流行した感が強く,アメリカで広く行われているピックアップ・ゲームとは,システムもルールも食い違っている。日本では,今日でもピックアップ・ゲームという名称もシステムも一般化していない。
 
 
ピックアップ・ゲームの実際
 
1.ピックアップ・ゲームのシステム
 では,アメリカで行われているピックアップ・ゲームとはどういうものだろうか。実は,筆者は1979年にロスアンジェルス市にあるUCLAの体育館(Men's Gym & Pauley Pavilion)で,このピックアップ・ゲームを実際に数日間体験したことがある。その当時体育館の壁面にかけられていたインフォメーション・ボードの内容は,図1に示す通りである。筆者は,このインフォメーション・ボードを参考にして1988年に独自のルールとシステムを作り,TRY­ANGLEという任意団体を設立して富山県総合体育センターのバスケットボールコートで,まさに誰もが気軽に楽しめるピックアップ・ゲームを開催していた10)。この活動は,その後次々と世話人が引き継がれ,現在も実施されている。さらに,茨城大学教育学部における体育実技「バスケットボール」の授業でもハーフコートで行うバスケットボールのゲームを教材として実施した11)。これらの活動は,全て筆者が1979年3月に数日間体験したピックアップ・ゲームをもとにしている。今回,在外研究員としてUCLAで行った研修は,まさにその当時の体験を確認するものとしても意図されていた。
 1979年当時,一般学生や一般人に開放されていたUCLAのバスケットボール専用体育館(Pauley Pavilion)は,現在一般に開放されていない。その代わり19 年に建設された一般学生や一般人向けの総合体育施設(Wooden Center)の一室がピックアップ・ゲーム専用コートとなっており,壁面にインフォメーション・ボード(図2)がある。両者の共通点と相違点を表に示す。
 
 
 
























 


INFORMAL RECREATION
BASKETBALL
RULES & REGULATIONS

1. ALL COURTS MUST ACCEPT "CHALLENGES".

2. A PERSON WHO "CHALLEGES" FOR THE NEXT GAME MAY NOT GO TO ANOTHER COURT & PLAY

IN THE GAME. HE / SHE MAY "SHOOT" ( WARM­UP ) AT ANOTHER BASKET.

3. FULL COURT GAMES MAY ONLY TAKE PLACE WHEN THERE ARE EMPTY COURTS AVAILABLE
FOR
PLAY. RECREATION SUPEVISOR IS RESPONSIBLE TO DECIDE IF FULL COURT GAMES MAY
CONTINUE
OR MUST BE BROKEN INTO HALF COURT GAMES.

4. SCORE MUST BE KEPT DURING EACH GAME SO THE PERSON CHALLENGING FOR THE NEXT

GAME MAY BE TOLD THE SCORE AT THE TIME HE CHALLENGES. GAMES ARE COMPLETED WHEN

ONE TEAM REACHES 26 POINTS & IS AHEAD BY 4 POINTS.

5. ONE­ON­ONE & TWO­ON­TWO GAMES ARE PROHIBITED IF PEOPLE ARE WAITING TO PLAY.
AS
MANY PLAYERS AS POSSIBLE SHOULD BE ACCOMODATED ( i.e. 3 OR 4 PLAYERS ON EACH TE
AM
).
 
























 
 
図1. Information Board in Pauley Pavilion at UCLA(1979)
 
 



















































 

 


        RECREATIONAL BASKETBALL CHALLENGE COURT
 



 
     
GENERAL  
     

  ●   During informal recreation hours, all basketball courts are on the CHALLENGE COURT SYSTEM.

  ●   All games shall be to thirteen ( 13 ) baskets ( must win by one basket ). The winning team holds
     
the court for the next game. The losing team shall vacate the court and should be replaced by a
     
challenge team.

  ●   A challenge team consisits of five ( 5 ) players. This challenge team may be made up of waiting
     players, or a combination of waiting players and participants already on the court.

  ●   Challenges are on a first­come basis. Challenges are made by a representative of the challenging
     team signing their name on the sign­up board provided near the court ( on the west side, east
     side for half­court games ). The challenging team holds their place on the challenge list by the
     representative whose name is on the board physically remaining in the IMMEDIATE AREA of the
     basket at which they are challenging.

  ●   If the challenging team is not present, ready to play, at the completion of the preceding game, the
     challenging team forfeits the oportunity to play then and must go to the end of the current
     
challenge list.

  ●   Anyone who Leaves the challenge area to play in a game on any other court forfeits his/her
     place on the challenge list.

  ●   Disputes concerning challenges or game conduct will be arbitrated by the Wooden Center
     Management.
 




























 
     
FULL­COURT GAMES  
     

  ●   Normally, the SOUTH and CENTER courts are designated for full­court games. However, if
      conditions make it advisable, full­court play may be suspended at the completion of the game in
      progress and subsequent games will be limited to half­court. The decision will be made by the
      Wooden Center Management.
 





 
     
HALF­COURT GAMES  
     

  ●   The NORTH court is normally designated for half­court games, but it may be used for an
     additional full­court games as long as there is not a significant demand for half­court games,
     
and the participant load in Collins Court is low, The Wooden Center Management will decide
     on the use of the NORTH court in the same manner as the SOUTH and CENTER courts.
 





 
 
図2. Information Board in Wooden Center at UCLA(1996)
表.1979年と1996年のインフォメーション・ボードの共通点と相違点
                      共 通 点
・レクリエーションという表題になっていること。
・チャレンジ・コート・システム(ゲームの勝者は,同一コートで続けてプレイをする権利を有すると同時に挑戦者の挑戦を拒むことができない。その勝者にコートサイドに控えている人がチームを作って挑戦すること)が採用されていること。
・1ゲームが13ゴールとなっていること。
・チャレンジャーがチャレンジを宣言してから他のコートへ移動してしまうなど,ゲームの進行を妨げる行為を防ぐように工夫されていること。
・なるべく多くの人がプレイできるように,配慮されていること。
                      相 違 点
・1979年のものが,人数の増加に応じてフルコートからハーフコートのゲームへと移行できるように配慮されているのに対し,1996年のものは,最初からフルコート用のコートとハーフコート用のコートを明確に区分している。
・1985年に3ポイント・ルールが正式なバスケットボールに導入されたことから,1979年の26ポイントとい う表現から1996年の13ゴールという表現に改正されている。つまり,UCLAのピックアップ・ゲームでは,3ポイント・ルールを採用しなかったことを示している。
・1979年は13ゴールでなおかつ2ゴール以上離れていなければ,勝者とならない(すなわちデュース制を採用している)が,1996年は13ゴールを先取したチームが勝者となる。
・1979年のものは,リクレーション活動の管理者にハーフコートゲームからフルコートゲームへの移行を指示する責任が示されているが,1996年のものでは,何か問題が起こった場合の調停役として同センターの管理人が明記されている。
 
 
 インフォメーション・ボードには「ピックアップ・ゲーム」という語は掲載されていない。しかし,「チャレンジ・コート・システム」の前提として,どのようにしてチャレンジするチームを作るのかは,暗黙の了解事項として人々の間に定着している。それがまさに「ピックアップ」方式である。アメリカの人々が長年にわたって作り上げた習慣,すなわちピックアップ(寄せ集め)方式は,文字として表されなくとも自然法として機能している。
 両者の相違点は,1984年以来学生や教職員や卒業生などを対象にした総合的なレクリエーション活動を支援するセンターが設立されたことに起因する。1979年当時は,大学が単に体育施設を一般に開放していたに過ぎなかったが,現在は会費を払った会員が施設を利用する仕組みになっている。したがって,インフォメーション・ボードも公共の立場から少しでも多くの利用者が快適に活動できることを第一義においており,責任の所在も明確になっている。
 しかし,利用者側は昔も今も全く同じ感覚で活動している。このことは,特に,正式なバスケットボールに3ポイント・ルールが採用され,コート上に3ポイントラインが描かれているにもかかわらず,そのルールを採用しなかったことから理解できる。ピックアップ・ゲームでは,プレイヤー自身が自分たちで得点をカウントしながらゲームが進行する。1979年当時も1ゴール単位(つまり,13ゴール)で得点をカウントしていた。それでも,得点をめぐるトラブルは絶えなかったと記憶している。仮に3ポイント・ルールが導入された場合,得点をめぐる多くの混乱を避けることはできない。その混乱の第1はプレイ中に何点だったかがわからなくなること,第2はあるシュートが3ポイントなのかどうかの判定(3ポイントラインを踏んでいたかどうか)で,もめごとが増えることである。したがって,当時も今も利用者は13ゴールでプレイしている。
 
2.ピックアップ・ゲームの進め方とルール
 チャレンジ・コート・システムでは,実際にどのようにしてゲームが行われるのだろうか。人数が少しずつ増えていくことを想定して,順を追って解説する。
(1)1人がコートにやってきてシューティング
 まず,最初に1人がボールを持ってコートにやってくる。当然,彼はシューティングをする。
(2)もう1人がやってきてシューティング・ゲーム
 そこへ見知らぬ人がやってきて,「1on1をやろう」と言う。最初にやってきた彼が1on1ではなくシュート練習をしたかったら断る。しかし,この場合でも遅れて来た人が,「それならシューティング・ゲームをやろう」と誘うことがある。シューティング・ゲームとしては,前述の著書『PICK­UP GAMES』に掲載されている「Horse」や「Around the World」が一般的によく行われる。
(3)もう1人がやってきて1on1
 もし,最初の1人が1on1を了解すれば,13ゴール先取のゲームが始まる。一般的にはハーフコートで行うことが多いが,両者が合意すればオールコートで行うことも可能である。ふつう,両者は握手をしたりお互いの名前を確認し合ってからゲームに臨む。
(4)ハーフコートでの1on1のやり方
@負けオフェンス(Losers' Out),勝ちオフェンス(Winners' Out)
 ハーフコートで1on1を行う場合,まず,負けオフェンス(Losers' Out)なのか勝ちオフェンス(Winners' Out)なのかを確認する。「負けオフェンスとは,得点されたチームがボールの所有権を得ることである。勝ちオフェンスは,得点したチームがそのままボールを保持することである。それは男性的な方法であり,もしボールを得たいのならば得るために得点をしなければならない。12)」UCLAでは通常,勝ちオフェンス(Winners' Out)が採用されている。
A攻撃権の決定方法
 次に,どちらが最初に攻撃するのかを決める。通常先にコートにいた人,あるいは挑戦された人が最初に攻撃をする。しかし,両者が同時にやってきた場合やどちらが1on1をやろう(すなわちこれは挑戦したことになる)と申し出たのか明確でない場合は,どちらかがフリースローラインの後方の3ポイントラインの外側中央からシュートをして,ボールの所有権を決定する。たいてい,最初にシュートした人のシュートの成否ですぐに決着する場合が多い。つまり,その人のシュートが入れば,その人が最初に攻撃権を得るし,その人のシュートが落ちれば,相手が攻撃権を得る。もちろん,最初にシュートした人やもう一方の人が納得できない場合は,もう一方の人も同様にシュートする。両者のシュートが成功した場合は,どちらかがシュートを落とすまでサドンデス方式で争われる。つまり,ここからすでに勝負が始まっているのである。
Bゲームの開始方法
 ゲームは,ディフェンス側がオフェンス側にボールをトスして渡すことから始まる。これを一般に「チェック・ボール(Check Ball)」と呼ぶ。例えば,アウト・オブ・バウンズになった場合やファールが起こった場合などは,すべてこのチェック・ボールからプレイが再開される。
Cディフェンス・リバウンド後の処置
 ディフェンスがリバウンドを取った場合,2種類の方法でプレイが継続される。1つは,フリースローラインよりもゴールに遠い位置,ないしは3ポイントラインの外側に自分で出て行って,そのまま攻撃をする場合である。もう一つは,相手にボールを渡し,チェック・ボールからプレイが再開される場合である。ボールを保持している側に選択権があり,ゲームの流れや疲れ具合に応じてどちらを採用しても構わない。
Dファールの判定
 ファールの判定は,ファールをされたと思った人が決定する。ファールをされても黙っていたり意志表示をしなかったら,ファールとはみなされない。このことはしばしばトラブルの原因にもなる。つまり,実際にファールが起こらなくとも,ファールをされたと思いさえすればファールになるのである。基本的には,両者に同等の権利があるので,その主張を尊重するが,ゲームの終盤で勝敗を決する場面になると,その主張をめぐってしばしば争いが起こる。
E意見が食い違った場合の処置
 ファールの判定やアウト・オブ・バウンズの判定をめぐって,しばしば口論となる。どちらかが否を認めたり相手の主張に納得すれば決着するが,たいていの場合は決着がつかない。この場合の決着方法は,先に示した「攻撃権の決定方法」に準ずる。すなわち,どちらかが3ポイントラインの外側中央(場合によっては,さらにその2〜3m後方)からシュートを打って決着するのである。日本でよく行われる「ジャンケン」は決して行われない。
(5)1on1の最中にあと2名が来た場合
 この2人が1on1を行っている間に,後から2人の人がやってきたとする。その2人が友人であろうとなかろうと両者がプレイをしたいと望めば,その2人がチームを組んで,1on1をしている2人に「2on2をやろう」と声をかける。もし,そこにゴールが1つしかない場合は,1on1をやっている2人は,1on1を中断して今戦っている相手とチームを組んで,その2人の挑戦を受ける。しかし,他にゴールが空いていたり,1on1が白熱している場合は,この申し出を保留し,1on1が終了するまで続行する。申し出た2人は空いているゴールで同様に1on1を初めてもよいし,シューティングをしてもよいし,シューティング・ゲームを行ってもよい。
(6)ハーフコートでの2on2のやり方
 基本的なゲームの進め方は,1on1と同様であるが,いくつか確認すべきルールが加わる。
Fゲームの開始方法
 1on1と同様,「チェック・ボール」でゲームが開始されるが,通常,ボールを受け取ったプレイヤーがすぐに攻撃することは許されない。つまり,そのまますぐにシュートすることも,ドリブルすることもできないのである。唯一許されるのは,もう1人の味方にパスをすることである。これは,「エブリワン・タッチ(Everyone Touch)」ルールと呼ばれるもので,上手なプレイヤーがたった1人でプレイをするのを防いでいる。2on2の場合,パスする相手は1人しかいないので,通常,このパスをディフェンスがインターセプトすることも許されない。次に説明する「フリー・パス」ルールが適用される。
Gスローインをするかしないか
 通常2on2の場合,アウト・オブ・バウンズやファールの後は1on1の時と同様「チェック・ボール」からゲームが再開される。しかし,2on2以上であればスローインをすることも可能である。この場合,ディフェンスの2人がオフェンスのレシーバー1人にぴったりとマークしてしまって,なかなかゲームが再開されないことが起こる。そこで「フリー・パス(Free Pass)」ルールが適用される。「フリー・パスのルールはインターセプト(阻止)されないスローインを意味する。これは,最も早く,最も確実にボールをプレーに結びつけ,特に初心者の間でよく使われる方法である。普通,フリー・パス・システムはスローインのレシーバーにシュートさせないというルールをも含んでいる。12)
Hヘルドボールの処置
 オフェンスとディフェンスが1つのボールを取り合って,両者の力が拮抗した場合,正式なバスケットボールのゲームでは,審判が笛を吹いてヘルドボールとなる。国際ルールでは,ジャンプボールとなるが,NCAAルールでは両チームに交互にボールの所有権が与えられる。しかし,このピックアップ・ゲームではヘルドボールを宣する審判がいない。この場合,いち早くボールを取り合っている2名以外のプレイヤーが「First!」と宣言する。その宣言が早いチームにボールの所有権が与えられる。
(7)さらにあと5人が集まってきて4on4をする場合
 2on2をやっている間にさらに5人が集まったとする。コートやゴールがいくつも空いている場合は,それぞれが思いおもいにシュートをしたり,シューティング・ゲームを行ったり,1on1を行ったりするが,通常はあと1人を待ってフルコートでの5on5をやろうとする。
 しかし,いくら待ってもあと1人がやって来ない。その場合は,2on2をやっているところへ一番最初にやってきた人が残りの4人の中から3人を選んで,2on2をやっている4人に「4on4をやろう」と挑戦する。その3人を選ぶ際,通常は到着順であるが,順番が不明確な場合や一番最初に到着した人自身の判断によっていくつかのチーム編成の仕方がある。他の4人の実力を十分把握している場合は,その中から実力のありそうな人に声をかけてチームを作るが,他の4人の実力がわからない場合や他の4人が強くチームへの参加を希望している場合は,4人にフリースローをさせ,シュートが入った人から順番に選ぶ。
 もし,5人のうち誰が一番最初にやって来たのかはっきりしない場合や5人が一緒にやってきた場合は,全員がフリースローをして4人を選ぶ。
(8)ハーフコートの4on4(3on3)のやり方
 ハーフコートの2on2のゲームの進め方とほとんど変わらないが,ゲームの始まりやチェック・ボール後に「ダブル・パス(Double Pass)」や「エブリワン・タッチ(Everyone Touch)」ルール13)を採用する場合がある。これは,初心者が多い場合や子どもたちの間で採用されるルールで,上手なプレイヤーが1人でプレイするのを防ぐ方法である。
Iダブル・パス(Double Pass)ルール
 所有権が変わった後,シュートまでに2回以上のパスを必要とする。
Jエブリワン・タッチ(Everyone Touch)ルール
 所有権が変わった後,全てのプレイヤーがボールにさわってからでないとシュートできない。
(9)あと1人がやってきた場合
 3on3や4on4が行われている場合,そのゲームを中断して5on5にすることはあまりない。しかし,4on4のゲームが白熱しない場合やメンバーが強く5on5を希望している場合は,途中で中断してフルコートの5on5をやることがある。この場合,誰もが白熱したゲームを望みつつも,自チームが負けるのが嫌なので,チーム分けの方法は複雑である。一番公平だと思われる方法は,全員がフリースローを順番に行い,入った順にAチーム,Bチームと振り分けていく方法である。ただし,この方法は時間がかかるので,通常はリーダー的な役割を果たす人がだいたいの実力を見て2チームに振り分けることが多い。みんながそのことに納得すればよいが,仮に誰かが納得しなかった場合は,その人にメンバーを選ばせることもある。また,明らかに他の人に比べて実力のある人が2人いる場合は,その2人を別々のチームのリーダーにして,順番にその他の人をピックアップさせることもある。そのピックアップの方法にも順番に名指しで選ぶ方法もあれば,フリースローをさせて入った人から順番にピックアップする方法もある。日本でよく行われている「グー・パー」というチーム分けの方法は,絶対に行われない。
(10)フルコートの5on5のやり方
 フルコートの5on5は,正式なバスケットボールとほぼ同様に行われる。ただし,審判がいないので,通常,ジャンプボールやフリースローは行われない。最初のボールの所有権や問題解決のための方法は,上述したものと同様である。ただ,正式なバスケットボールと異なる特徴的なことは,バックコートからのスローインの場合やディフェンス・リバウンドを取った後に,しばしばプレイが中断され,フロントコート上でのチェックボールでゲームが再開されることである。これは,両者が疲れてきた場合やゲームの終盤に頻繁に起こる。つまり,フルコートのゲームであっても,その中間部分を省略して,ハーフコートで決着をつけようというのである。ただし,ディフェンスがボールをインターセプトしてからの速攻は,この限りではない。慣れないと一体なぜゲームが中断されているのかなかなか理解できない。
(11)5on5をやっている場合のチャレンジの仕方
 さて,フルコートの5on5が行われているところへ,誰かがやってきたとする。彼は5on5のゲームがやりたい。その場合,必ずゲームをしているプレイヤーに得点を尋ねなければならない。そのことが,そのゲームの勝者に自分が挑戦をするということを示す。また,5on5をやっているメンバーにとっては,この試合に負けた場合に同一チームで再び相手に挑戦することができないことを意味する。つまり,コートサイドに控えている人がそのゲームの敗者の中から4人を選んで勝者に挑戦するのである。
 コートサイドに控えている人は,ゲームの様子を見ながら誰を選ぶかを考えておく。そこへ新たな誰かがやってきた場合は,通常,コートサイドに控えている人に「自分を仲間に入れてくれ」と頼む。コートサイドに控えている人は,自分を含めて2人目なのでまず断ることはない。ところが,自分を含めて4人目,5人目となると事情が違ってくる。つまり,現在やっているメンバーで負けたチームにいる人の中から選んだ方が,自分のチームにとって有利になると判断した場合は,4人目以降の申し出を断るのである。その場合,「もう5人揃っているから,君が次のゲームのリーダーだよ」と言う。すると彼は,次の次のゲームに挑戦する権利と同時に,新しく来た人や次のゲームの敗者の中から,自分のチームに有利になる人をピックアップする権利を有することになる。
 新しくやって来る人の中には,3・4人のグループで来ることもある。そういう場合,彼らが同一チームでゲームをするには,うまくグループごとピックアップしてもらうか,誰かがリーダーになるまで待たなければならない。人数が多くなればなるほど,混乱も多くなるが,結局実力のある人は,早くピックアップされることが多く,ほとんど待たなくてもスムーズにゲームに参加できる。逆に実力のない人は,何回も待って自分がリーダーにならなければ,なかなかゲームに参加できない。しかし,待ちさえすれば,どんな人でも必ずプレイすることができる。
(12)ゲームのマナー
 さて,このようにしてピックアップ・ゲームが朝から夜まで延々と続く。多くの人が入れ替わり立ち替わりやってくるのだが,誰もが気持ちよくプレイできるように暗黙のマナーがある。一つは,ゲームが終わった時に必ず敵でも味方でも握手をしながら「Good Game!」と言葉を交わすことである。もちろん,ゲームの最中でも良いプレイがあったらお互いを讃え合う。しかし,必ずしもお互いが気持ちのよいゲームが展開されるわけではない。ファールをめぐるトラブルや得点をめぐるトラブルが絶えず,後味の悪いゲームもある。そんな時は握手もしないし,お互いを讃え合うこともない。しかし,たいていの場合,ゲーム中に口論となっても,ゲームが終わったら握手をするのがマナーである。
(13)ゲームとゲームの合間のシューティング
 ゲームとゲームの合間にシューティングをする。自分のボールを他の人に使わせたくない場合は,どこかにしまっておくが,たいていの場合,誰のボールであってもみんなで共有する。この時,一定のルールがある。あるシュートが入った場合,ゴール下にいた人は必ずそのボールをシュートを決めた人に返球する。したがって,シュートが入り続けている間は,ずっとその人はシュート練習をすることができる。もしシュートが入らなかった場合は,誰も帰してはくれない。そのボールをリバウンドした人が,外へ出て自分の好きなところからシュートする。
(14)いつやめるか
 ゲームへの参加の方法は,上述した通りであるが,ゲームをやめる時の暗黙の約束もある。ゲームの敗者になって帰宅する場合は何の問題も起こらないが,勝ちチームに所属している場合に帰宅する場合は,チームメイトにその旨を伝えなければならない。たいていの場合,その試合で戦った相手チームの中で自分と対戦した相手や上手な人に声をかけ,チームメイトに彼が自分の代わりにチームに入ってもよいか了承を求める。つまり,自分が抜けた後始末まで自分でするのがマナーである。中には,ゲームの途中に突然何も言わずに抜けてしまう人もいるが,そういう人は次の機会にピックアップされない。
 
3.ピックアップ・ゲームの事例報告
 ロスアンジェルス市UCLAやその近郊では,どのようにしてピックアップ・ゲームが行われているのだろうか。フィールド・ノートをもとにいくつかの事例を紹介する。
(1)ウッデン・センター(Wooden Center at UCLA)
 @ピックアップ・ゲームのシステム
「ウッデン・センターを覗いてみることにした。コリンズコートというバスケットボールコート3面のフロアーの一番入り口側でゲームが展開されていた。その奥のコートでは自主練習をしている面々がいる。中には女の子が父親か誰かに指導を受けているようであった。ちょうどゲームとゲームの切り替えの時で,僕はすぐにゲームに加わることができた。ゲームはフルコートで行われ13ゴールで終了となる。サイドやエンドからのスローインはなく,すべて3ポイントラインの外側中央に位置したオフェンス・プレイヤーにボールをトスしてからゲームが再開される。3ポイントシュートも1ゴールとして数えているようだ。ここで,プレイしているのはみんなUCLAの関係者なので,メンズ・ジム の午前中のようにとんでもなく上手な選手はいない。しかし,みんな自分のやるべきことを心得ていて,ゲームをやりながらそれぞれの役割が少しずつ固まっていく感じである。」(1996.9.12)
 A9連勝
「ウッデン・センターで9ゲームも連続してやった。みごと全勝。こちらの人は負けることがとにかく嫌いなので目の色を変えてやることは確かだが,その反面もろさもある。ちょっとうまくいかないとすぐに投げてしまうのである。単純といえばそれまでだが,僕はずっと声を出して味方を励ましながらやっていたので,明らかに弱そうに見えたチームが徐々にチームらしくなり,次々と人は入れ替わったものの9連勝することができた。」(1996.10.25)
 B満員御礼
「夜7時30分にウッデン・センターへ行ったがあまりにも多くの人がピックアップ・ゲームをしていたのでステップマシンを20分やって再びコートへ戻った。ところがさらに人が増えているではないか。3つのコートで30人がプレイしていて,待っている人が40人ぐらいいる。本当にすごい稼働率である。」(1997.1.13)
 C口論
「ウッデン・センターへ行きピックアップ・ゲームをやった。5人対5人のゲームなのだが,そのうちの2人が熱くなり,ほとんど2人でやりあう場面ばかりになってしまった。ほとんど喧嘩腰である。例えば僕がそのうちの1人のシュートカットに飛んで綺麗にカットした時も,ファールをされたと叫ぶ。すると僕のチームのその相手が今のはファールじゃないと言う。結局,何が起こっても2人で口論が始まってしまうのである。僕のディフェンスをしていた人は,シーっというそぶりを見せ,僕によけいな口出しをしない方がよいという。こういう場面は,日本ではなかなかお目にかかれないが,これが戦いの原点なのだろう。」(1997.1.17)
 Dひどいピックアップ
「ウッデン・センターでピックアップ・ゲームをしようと思ったが,かなり込んでいた。次の順番を待っているリーダーにプレイできるか?と尋ねると「知らない」という返事。そこにはちょうど5人が控えていたので他のメンバーに尋ねると「おそらくプレイできるだろう」と言う。前のゲームがなかなか終わらず,ずいぶん待った。さて試合かと思ったら,何とそのリーダーは今負けた方のチームの仲間を4人ピックアップして試合をするという。ちょっと頭にきたのでステップマシンをして身体を動かすことにした。」(1997.3.17)
 E白熱しないゲーム
「ウッデン・センターでピックアップ・ゲームをしたが,天候の影響か本当に人が少なく閑散としていた。すぐにゲームをすることができたが,メンバーがほとんど入れ替わらない。次のゲームに控えているチームがないとゲーム自体も白熱しないのである。1人だけが次のゲームを待って控えていた時,僕らのチームが負けた。そこで,すかさず彼に「入れてくれ」と頼んだのが3人。あとの2人は何も申し出なかったが,その2人が得点源であった。本来なら控えていた1人が4人をピックアップしなければいけないのだが,彼が「誰でもよい。あと1人必要だ。」と言うので,混乱した。負けたチームの僕以外の連中は僕をはじき出してチームを作りたかったようだが,僕はちゃんと彼に「入れてくれ」と頼んで承諾を得ていたので,知らん顔。すると,結局2人のうちの1人があきらめて帰ろうとしたが,今度は勝った方のチームがそうすると力の差が歴然としてしまうので,控えていた1人にお前は誰が欲しいんだと迫る。ようするに人数が少ないと競争原理が働かず,結局白熱したゲームができないから面白くなくなるのである。」(1997.4.21)
 Fコービー・ブライアント選手登場
「ウッデン・センターへ行くと一番奥のコートがしきりで区切られていてUCLAのトビー選手やマッコイ選手たちがピックアップ・ゲームをしていた。ところがいつもよりもたくさんの人が見ている。−中略− 何と昨日プレイオフでユタ・ジャズに負けたばかりのロスアンジェルス・レイカーズのルーキー,コービー・ブライアント選手が一緒にプレイしているではないか。来シーズンからUCLAでプレイすることになった高校生バロン・デービス選手もいる。こうして日常的にNBAと大学と高校のトッププレイヤーたちが集まってピックアップ・ゲームをしているのだから,ロスのレベルが高まるのもうなづける。また,こうしたピックアップ・ゲームがアメリカのバスケットボールの強さを支えていることは紛れもない事実だろう。ここでは一人ひとりが徹底的に自分で攻めて,自分自身に負荷をかけていく。個人技術をゲームの中で自ら育んでいくのである。」(1997.5.16)
 
写真1.ドリブルするコービー選手(Wooden Center)  写真2.Westwood Park屋外コート
 
 
(2)メンズ・ジム(Men's Gym at UCLA)
 @NBAプレイヤーのピックアップ・ゲーム
「いつもの裏口から2階に上がると,でかいのがいるいる。見上げるような選手がコート2面を使って,ゲームをしていた。とにかくボールを持ったら1対1。完全にNBAのプレイだ。それもそのはず,そこには実際クリッパーズやレイカーズの選手が5,6人とマジック・ジョンソンチームの一員,ヨーロッパで活躍しているプロ選手,これから契約を結ぼうとしている選手たちがいて,セレクションの場になっているのだ。なるほど,周囲にはそれらしいスカウトマンがメモを片手にゲームを見ている。目を見張るようなアーリーウープあり,ブロックショットあり,スチールありで,みんな真剣にやっていた。ところが,そんな中にもどう見ても高校生のような選手や,あまりうまくなさそうな選手も混じっている。後で聞いた話だが,体育館に早く来ていればやりたい人は誰でもプレイできるらしい。こんなところがアメリカの強さの秘密だと実感した。」(1996.8.23)
 A小・中学生とのピックアップ・ゲーム
「着替えを済ませさっそく2階へ上がっていくと何人かゲームをやっていた。僕は久しぶりだったので簡単に柔軟をしてから,若者たちのグループへ近づき「プレイしたい」と伝えた。1人の少年が僕の言うことに耳を貸してくれ,仲間を集めて2対2のゲームをした。彼らは本当にゲームの楽しみ方を知っていた。決してうまい訳ではないが,自分のするべきことを心得ていて,べちゃべちゃしゃべりながら駆け引きをし,楽しいゲームであった。1人はちょっとおでぶちゃんで膝が悪いらしくあまり動けないが,僕とチームを組むと要所要所でシュートを決めた。1ゲーム10ゴールでウィナーズ・アウツ。3ポイントラインの外側からのシュートが決まると2ゴールにカウントする。「21点ゲームでシュートを決めたら引き続き攻撃権を得る」という僕が日本で密かに広めていたルールとほぼ同じである。17年たっても基本的には変わっていないのだと思ったが,あの時は確か13ゴール26ポイントだったと思う。3ポイントルールの導入からポイントを数えるのが面倒になってゴールカウントになったのだろう。」(1996.8.27)
 Bマジック・ジョンソン選手登場
「昨日の情報を信じて,10時過ぎにまずメンズ・ジムへ向かった。フロアーを見渡すといつものように背の高い連中がピックアップ・ゲームをしている。いたいた,マジックがいつもの顔ぶれに混じってプレイしていた。心なしか脚が細くなっているように見えたが,とにかく目の前でプレイしているというそれだけで十分だった。」(1996.9.13)
(3)ウェストウッド・パーク(Westwood Park)
 @各種ピックアップ・ゲーム
「この暑さの中でも活動しているのは,なんと人間ばかりである。バスケットコートでは,ピックアップ・ゲームをしているし,芝生の上では7人対7人でアメリカンフットボールとバスケットボールのドリブルなしとフリスビーを組み合わせたようなゲームが展開されていた。不思議なのは,年齢がまちまちで20代から50代ぐらいまでの大の大人が汗だくになってゲームに熱中していることである。まず,日本では草野球以外に見かけない光景だろう。運動量は草野球よりはるかにある。上半身裸でやっているのだが,こちらの人はみんな結構よい体つきをしている。運動することが生活の一部になっている感じだ。」(1996.8.31)
 A大人と子ども
「息子は,1人でバスケットボールコートへ行って試合の合間にゴールが空くとそこでシューティングをする。もし,一団がやってくるとすぐにコートの外へ逃げ出す。これを繰り返しながら自然に周囲に気を配ることを覚えているようでもある。おもしろいことに,必ずこうした小さな子どもを相手にゲームをやってくれる人がいる。小さな子ばかりを集めて2on2や3on1をやるのである。この日も小さな子ども3人を相手にお兄さんがゲームをやってくれていた。」(1997.4.5)
 B思わず指導してしまう日本の高校生
「息子はフリースローの練習をしていた。すると,近くにいた高校生ぐらいのお兄さんが,日本語で「膝は曲がっているけど,つま先の力をボールに伝えないといけないよ」とアドバイスをしてくれた。よく話しを聞いて見ると日本から友人のところへ遊びに来ているという。そして,公園でピックアップ・ゲームを経験しているらしい。そういう高校生がどんどん増えればよいと思ったが,小さな子どもを見たときにすぐに教えてしまうあたりが,やはり日本的だと感じた。今までも何人ものお兄ちゃんや大人たちが息子を相手にしてくれたが,いずれも「一緒に遊ぼう」という感じであった。小さな子ども相手に思わず高校生が指導してしまうあたりが,やはり日本はゲームからではなく練習から入っているんだということを象徴するような出来事であった。」(1997.5.5)
 
 
ピックアップ・ゲームの意義と役割
 
1.ピックアップ・ゲーム普及の背景
 こうしたピックアップ・ゲームがロスアンジェルスで広く普及している背景には,さまざまな要因がある。食の豊かさや車社会が肥満につながり,人々が主体的に運動の機会を求めなければならなくなった。フィットネスクラブも盛況だが,高いお金を必要としないピックアップ・ゲームはアメリカの人々にとって根強い人気を誇っている。気候風土の影響も大きい。国土が広いため人が集まる地域とそうでない地域が明確に区別されている。都市と都市の間には何もない。したがって,その地域ごとに活動することが当たり前になっており,その地域の気候風土に応じた施設設備が整えられている。プロスポーツのチームも都市毎に設けられ,人々の地域に対する意識を高めている。地域住民がコミュニティーを発達させるのに十分な条件が整っているのである。
 日本は人が住める絶対的な面積が少ない割に人口が非常に多い。すると地域と地域との境目がなくなり,当然地域社会の活動が崩壊してしまう。交通機関の発達はさらにそのことに拍車をかけ,大都市との交流が地域社会の発展であると勘違いしている。秋田県能代市が「ふるさと創世」資金を使って「バスケの街作り」を行っているが,こうした活動はむしろ特殊なケースであろう。
 
2.チャレンジ・コート・システムが意味するもの
(1)実力主義
 上述した通り,ピックアップ・ゲームは,チャレンジ・コート・システムと表裏一体となっている。ピックアップ「する」「される」という関係が,ゲームに勝つか負けるかという競技性に加え,競争社会の原点となっている。このことは,移民の国アメリカに住む人々の歴史を反映したものである。ボールの所有権をめぐる決定方法やチーム分けの方法も,こうした徹底した競争原理に基づいて行われている。
 さらに,ピックアップ・ゲームという競争の場自体が,正式なバスケットボールの選手として生きていけるかどうかの登竜門としても機能している。NBAの選手やNBAを目指す選手たちにとって,ピックアップ・ゲームはまさに登竜門であり,常にスカウトマンの目が光っている。逆に言えば誰もが実力さえあれば,はい上がっていけるチャンスを持っていることを意味し,ピックアップ・ゲームはその最初の関門でもある。
(2)権利を持っているということ
 ピックアップ・ゲームでは,誰もがゲームに参加できる権利を持っている。ゲームをやりたいと思っている人がその意志を表明した場合,排除されることはない。それは,例え言葉の通じない外国人でも同様である。つまり,年齢,性別,人種は一切問われない。ただし,その人がピックアップされるかどうかは別の次元の話であり,ピックアップされない場合にはその人がピックアップする権利を持つことになる。
 ゲームに参加したいという意志を明確に表示しなければいけない。日本の社会では,言葉で表さなくても「阿吽の呼吸」で意志を感じ取ってもらえる。むしろ,誰もが常に周囲の目を意識し,人が自分をどう見ているのか,自分に対してどう思っているのかに敏感になっている。コートサイドでゲームを見ている人がいた場合に,親切心というよりむしろ,自分がどう見られているのかを気にしているがために,その人の意志に思いを寄せ,「阿吽の呼吸」が成立する。これに対しアメリカのピックアップ・ゲームの場では,コートサイドに立ちつくしているだけでは,誰も誘ってはくれない。
 権利を行使した以上,必ず責任もついてくる。ピックアップ・ゲームの場で怪我をしてもそれは自己責任において処理すべき問題である。自分の意志でゲームに参加し,ゲーム中に怪我をしたとしても,それは誰の責任でもない。自分の責任である。怪我の程度にもよるが,管理者は応急処置しかしない。日本の場合は,やりたくないのに誘われて参加した人が怪我をした場合,みんなが気まずい思いをするだけで,責任の所在も明確にされないままである。
(3)特殊な場面
 誰もが参加することのできるピックアップ・ゲームだが,時と場合によって状況が変わることがある。基本的にはどこのコートへ行っても誰もがプレイできる権利があるが,特定の時間と場所では,参加する権利を行使できない雰囲気になる。それは,例えばバスケットボールを職業としている人たちが集まってきた場合である。
 チャレンジ・コート・システムは,そのコートのレベルを徐々に定め,参加者はそのコートのゲームの様子を見て,自分にとってふさわしいコートに参加する。バスケットボールを生業にしている人たちが集まってきた場合でも,そのコートでプレイしている人たちをどこかへ追いやることはない。まず,その人たちと戦いそのコートで続けてプレイする権利を得てからある一定レベル以上の人たちをピックアップする。ある一定レベル以上の実力を身につけていないと相手に怪我を負わせてしまうことがあることを誰もが心得ている。彼らに挑戦する権利を行使するということは,それなりの実力と覚悟を必要とする。また,彼らにピックアップされるということは,それだけの実力を備えているという証でもある。
 
3.日本とアメリカの価値観の違い
(1)強さと賢さ(フィールド・ノートより抜粋)
「ここアメリカでは「強くあること」が価値観の大半を占めています。日本ではどちらかというと「賢くあること」のような気がします。ですから日本では猫も杓子もみんな勉強勉強ですが,こちらはそれだけではありません。とにかく人と違った能力を身につければ,それが力になることを心得ています。こちらの「賢さ」の尺度は「いかに強く見せるか,いかにしたら強くなれるか」という部分で作用しているようです。日本は何となく知識の量であったり,ずる賢さであったり,いかに人とうまくやっていくかであったりするような気がします。−中略− ピックアップ・ゲームをしていても,ファールだとかファールじゃないとかみんな喧嘩腰です。僕は比較的にこやかにプレイしていますが,中国からやってきた友人が,それではいけないと忠告してくれました。いつも怒っているようにしていれば,相手があきらめるというのです。つまり,自分の主張を通す手段として怒っているように見せろというわけです。アメリカの外交政策に似ていますね。つまり,これだけいろんな人がピップアップゲームに来るのは自分が強いんだぞということを確かめるためにやってくるわけです。そしてその欲求が満たされることが楽しさであり,その欲求が満たされなければ楽しくないのです。ですからみんな勝てそうなところでしかプレイしないし,勝つために強い人間をピックアップするわけです。もし,負けたとしても自分がシュートを決めて,局面で強さを見せつけられればそれでも満足します。だから,ボールをもったらみんなシュートします。
 UCLAのチームのスタートの選手1人と控えの選手2人がピックアップ・ゲームにやってきたことがあります。彼ら3人と比較的うまい2人がチームを作ってしまい,何度か勝つと他のみんなはそこでプレイをしないで眺めていたり,他のところへ散って行ってしまいます。要するにそこで戦っても相手が強すぎて自分の強さを見せつけられないので,戦わないわけです。僕などは,とにかくゲームができればいいやとか,勝っても負けても一生懸命やればいいやとかいう感じで,その過程を楽しんでいますが,彼らにとってそんなことは美徳でも何でもありません。つまり,勝たなければ,そして自分が強いんだということが確かめられなければ意味がないのです。ですから負けると異常なほどに悔しがります。
 日本では,少なくとも僕の世代からは,直接的な争いを避けて良い子(=賢い子)になりなさいと小さな時から育てられてきました。この国では強くなりなさいと育てているような気がします。だから人と違った長所があるとそれを少しでも伸ばそうとしますし,そういう部分に必ず賞を与えます。日本のようにあれもこれもみんなできる。でも,人並みというのでは,いつまでたっても賞がもらえないのです。こちらではほとんど「あれはダメ,これはダメ」とは言いません。とにかく誉めて育てるのです。欠点はほったらかしにしておいて長所を伸ばすわけです。それが強くなるために必要なのです。日本では長所を伸ばすことより,欠点をなくそうと努めます。人並みであることが,人とうまくやっていくために必要で,それが賢く人と争わないで生きていくために必要なのです。ですから,小さい時から叱って育てます。
 スポーツが強さを競うものであることとお金が強さの象徴であることが結びついた時点で,この国のスポーツがビッグ・ビジネスになるのは当然です。日本でスポーツが今一つ盛り上がらないのは「強くあること」が「賢くあること」よりも低く位置づけられているからでしょう。しかし,人間である以前に動物である以上日本人といえどもどこかで強さに対するあこがれみたいなものがあるはずです。ところが常に賢くならなければならない(=知識の量を増やさなければならない)というストレスの中で,表面的には人と争ってはいけないと育てられていますから,当然,水面下で弱いものいじめをしてしまうわけです。この国では弱いものいじめをしても誰も強いとは認めてくれませんから,そんなことが起ころうはずもありません。」(1997.1.17)
(2)ジャンケンとグー・パー
 アメリカ人は,ピックアップ・ゲームの場で「ジャンケン」も「グー・パー」も一切行わない。ピックアップ・ゲームは自ら参加する戦いの場であり,ボールの所有権やチーム編成もゲームの一部分である。そこからすでに「駆け引き」が始まっており,そのことが勝敗に大きく影響することをみんなが理解している。日本では,昔からものごとを決める時に偶然の神様にゆだねてきた。そのことが自分自身でものごとを決断する力を失わせてきたとも言える。偶然の神様に身をゆだねることとその決定が自分にとって不幸なことであっても我慢してそれを受け入れることを学んでいる。もちろんアメリカ社会でも同様の決定方法は存在するが,ピックアップ・ゲームの場面に関しては,そういう偶然でものごとを決めることはない。あくまで実力でものごとを決定しようとする姿勢は,小さい時からこのピックアップ・ゲームを通して人々の間に浸透し,そのことがアメリカ社会のあらゆる場面の意志決定方法に反映されている。
(3)教える,教えられるということ
 ピックアップ・ゲームに集まってくる人の目的は,実にさまざまである。一般の人にとっては,身体の健康維持増進,ストレス発散,友人との交流などがその目的にあるだろう。バスケットボール競技選手にとっては,トレーニング,コンディショニング,怪我のリハビリテーションなどがあげられる。また,バスケットボール選手を目指す子どもたちにとっては,自己鍛錬の場であり,周囲の人々(特にスカウトマン)に自分をアピールする場でもある。
 それぞれの思惑を胸の内に秘めたままピックアップ・ゲームが行われる。そこは戦いの場である。ある特定のチームメイトによって,自チームにとってマイナスになることが頻発に引き起こされる場合,実力のある人がその人にアドバイスすることはある。しかし,教えることはない。その人もそのアドバイスに素直に応じるとは限らない。その人にはその人なりの目的があり,自分なりに戦っているのである。それをとやかく言われる筋合いはない。もし,仮にそのことが気に入らなければ,次のゲームで違うチームに所属すればよいだけの話である。
 そもそも,ピックアップ・ゲームは,人にものを教える場ではない。自ら学ぶ場でこそあれ,誰も教えられることを望まない。もし,人にバスケットボールを教えたければ,サマーキャンプやパーク・リーグのボランティアにコーチとして参加すればよい。バスケットボールを教えてもらいたければ,お金を払って講習会やパーク・リーグに参加すればよい。そのお金がない人は,身内に教えてもらう以外には方法はない。
 2−(3)−Bで記した日本の高校生が見ず知らずの子どもに教えてしまうということは,いかに日本では「教える−教えられる」ことが当たり前になっているかを象徴的に物語るものである。日本では,「教える−教えられる」ことが日常化するあまり,「教える」という行為が,重要な責任を伴うということを人々の意識から遠ざけている。また,子どもたちの「自ら学ぶ」という姿勢をも失わせている。
 
4.ゲームの魅力
(1)ナチュラル・スポーツ(フィールド・ノートより抜粋)
「バスケットコートでは大人から子どもまで,いつものようにピックアップ・ゲームをしている。その向こうの芝生では子どもたちがサッカーをしていた。本当にこの国ではスポーツが定着している。小学校では日本の体育のような授業はないのに,どうしてこんなにみんなスポーツを愛好しているのだろう。大の大人がいつまでたっても子どものような心を持ち合わせていて,本当に子どものようにスポーツを楽しんでいる。自己主張が強く,負けず嫌いで,子ども相手のスポーツでも絶対に手を抜かず,子ども以上に熱中し,勝負にこだわり,自分勝手に楽しんでいる。もしかしたら,日本の体育の授業は協調性を強調しすぎて人間が本来持っている闘争心を失わせているのかもしれない。スポーツは人間が持っているエネルギーを発散させて,さらにその許容量を高める働きをしている。歴史が物語っているように人間は無益な争いを繰り返しているが,スポーツは,一定のルールとマナーにしたがって一人ひとりが思い思いにエネルギーを発散する場を提供している。そのことによって一人ひとりが豊かな生活をおくることができるようになるし,その喜びや悔しさが生きる糧になる。ところが日本ではスポーツは体育の授業の中で協調性を培うためのものとして利用されてきた。そのため,反動として課外活動の運動部では勝利至上主義に基づいた指導が横行しているのかもしれない。この公園で子どもから大人まで一緒になってスポーツをしている姿を見ているとなんだかナチュラルなスポーツを見ているような気がする。荒削りで決して美しいフォームでプレイしているわけではないが,次の瞬間にどんなことが起こるかわからないような期待感と人間が持っている本能的な部分を刺激されるような魅力がある。日本のスポーツは見た目が美しく礼儀正しく,まさに「清く,正しく,美しく」という言葉が当てはまる感じではあるが,それだけに次の瞬間に何が起こるかわからないという期待感に欠け,ともすればちょっと見ただけで結果が分かってしまうケースばかりである。こちらのゲームはほんのちょっと目を離したすきに何かを見逃してしまう場面が多い。たとえフォームは乱れていてもちゃんとシュートを決める。また,ほんのちょっとしたことからまさに喧嘩が始まるかもしれない,そんな緊張感に満ちている。日本のゲームはそういう緊張感もないし,いつもうまいチームが勝って,へたなチームが負けるのが当たり前になっている。こちらは本当に下手なチームでもたった1人なんだかわけの分からないすごい奴がいればそれで勝ってしまうのである。」(1996.11.16)
(2)気晴らしと競技性の一体化
 インフォメーション・ボードには「Recreation」と書かれているが,日本語の「レクリエーション」という言葉が示す内容とは,ちょっと異なっている。日本の場合,レクリエーションというとやらなければならない仕事に対して「気晴らし」の意味が強く,真剣な活動とは受け取られない。特に運動部活動などで毎日練習に明け暮れている子どもたちにとって,レクリエーションは競技ではなく,いい加減さを伴う活動としてとらえられる傾向がある。
 しかし,ピックアップ・ゲームはレクリエーション活動として機能しながらも,徹底した実力主義に支えられた競技性の高いものになっている。しかし,そこに参加しようとする人の運動能力レベルは問われない。そのことが,参加する人の目的に応じて気晴らしにもなり,自己鍛錬にもなるという相反する要素を同時に兼ね備えた活動の場を生み出している。
 
 
おわりに
 
 日本では「ストリート・バスケット」として普及し始めたピックアップ・ゲームが,なぜ3on3大会という競技会として発展してしまったのだろうか。それは,まさに表面に見える部分だけを輸入したからであり,競技会というお膳立てがなければ,参加することができない日本人の気質に合わせたからでもある。日本人の集団帰属意識の高さも反映している。仲間と寄り添わなければ自分1人では何もできない。さらに,何でも比べたがる日本人の意識も反映している。競技することそのものを楽しむよりも,何番になったのかが重要な意味をもつ。
 上述した通り,アメリカで行われているピックアップ・ゲームは,現在の日本人が持ち合わせていない慣習に根ざした活動である。その原点に「基本的人権の尊重」「自由,平等の精神」があり,自由競争社会の縮図となっている。したがって,大人から子ども,NBA選手から初心者まで参加者が幅広いにもかかわらず,一定の秩序を保ちながら活発に活動が続く。
 日本では,一昔前までピックアップ・ゲームに似た慣習を持ち合わせていた。「ガキ大将」が近所の子どもたちを引き連れて,隣町の子どもたちと決闘していた時代は,このピックアップ・ゲームの底辺に流れるような暗黙の了解事項があったに違いない。子どもたちは,そこで生きるために必要なことを自然に身につけていた。
 しかし,西洋に追いつけ追い越せと子どもたちを地域から学校に縛りつけた時点で,縦割りの人間関係から横割りの人間関係ができあがり,学校という特殊な社会の枠組みに管理されるようになった。そこでは,「教えること」「教えられること」が当たり前になり,偏差値というものさしで横割りの人間関係に序列をつけてしまった。子どもたちは,自ら学ぶことや自ら決断することを失い,定められたレールの上を歩むことに慣れさせられた。戦後,日本は世界にも類を見ない勢いで高度経済成長を遂げ,今日の経済大国を築き上げた。しかし,同時に子どもたちからゆとりを奪い,ものの豊かさに囲まれながらも,生きる喜びを見失なわせてしまった。
 今日,日本は規制緩和によってアメリカ型の自由競争の原理を導入しようとしている。国際社会に日本が生きていくために必要なことだが,システムだけを導入してもうまくいかない。アメリカという国に生きる人々の生活習慣をよく理解しなければ,日本に生きる私たちの生活習慣に歪みが生じるばかりである。
 本研究は,ロスアンジェルス市で行われているバスケットボールのピックアップ・ゲームを対象にしたにすぎない。しかし,そのピックアップ・ゲームは,まさにアメリカ型の自由競争社会の縮図であった。戦後,様々なアメリカ型のシステムを導入してきた日本であるが,ピックアップ・ゲームに見る限り,そうしたシステムの根底にあるものの考え方やマナーは何も導入されてこなかった。日本人が元来大切にしてきたものの考え方やマナーが失われ,形だけを真似たことで,様々な形で歪みが生じ,子どもたちにそのしわ寄せがいっていると考えることはできないだろうか。
 学校に代わり大人と子どもが一緒に活動できる場として地域や家庭の在り方が問われている。しかし,そこでの大人と子どもの関係が,従来の学校のように「教える−教えられる」関係であってはならない。誰もが等しく権利を持ち,平等に扱われながら,真剣に取り組める活動が求められている。地域社会におけるスポーツ活動が果たすべき役割は大きい。
 (フィールド・ノートより抜粋)
「(アメリカの)子どもたちはのびのびと育ちます。特に競争原理がゲームのルールの中にも反映されていて,よほどのことがない限り先生が口を出すような雰囲気はありません。−中略− こういう雰囲気が育つのは,価値観が多様化しているからだろうと思います。子どもは一人一人みんな違っていてそれぞれ得意なものと不得意なものがあるんだという,考えて見ればあたりまえのことが人々の間に浸透している感じです。人種の坩堝ですから外見から明らかに一人ひとり違います。だから違うのが当たり前なのです。そしてそれをお互いに認め合っている感じです。
 先生も大人も子どももよく誉めます。何か少しでもうまくできるとみんながそれを誉めるのです。できないことを日本のお母さん方のように悲観したりする雰囲気はありません。また,できないことを無理にやらせようという雰囲気もありません。−中略− そういう雰囲気に支えられて子どもたちは本当に夢いっぱいに育ちます。日本の子どもたちのようにませた感じがありません。素直にのびのびと夢をはぐくみながら大人になり,大人になっても夢を持ち続けている感じです。−中略− そういう雰囲気の中で一人ひとりの自分の身体や健康に対する意識も自然に育っていくのでしょう。身体を鍛えるのは誰のためでもない自分のためなのです。そしてそれをやる人は徹底的にやります。別にやりたくない人に強制することはありません。ただ,みんながよく身体を鍛えるし,シェイプアップするのでそれが当たり前のような雰囲気ができあがっています。それをまた,支えるだけの施設や設備も整っています。
 前にも書きましたが,こちらの学校は最低限のことしかしません。それ以上何かをしたければ必ずお金がかかります。スポーツにしろ,音楽にしろ,日本の塾と同じようにお金をかけなければ身につきません。よくテレビのコンテストなどで優勝した人たちにインタビューすると,アメリカ人は「家族に感謝している」と言います。日本にいるときは,何だか不思議な感じがしていました。ところが,こちらに来てみると,それが当たり前のことなのだということがわかります。親が手をかけなければ,そこまで登りつめることはまずできません。何しろ16才まで送り迎えが義務づけられています。小さいときに親が学校やスポーツクラブまで送り迎えしなければ,子どもたちは選手として育たないのです。それが出来ない親は公園で自分で自分の子どもに指導します。日本のように学校にまかせきりになりようがないのです。−中略− だから,家庭環境がよいか悪いかが子どもに大きく影響します。そして,恵まれない家庭が集まる地域に育つ子どもたちの問題は,アメリカ社会の歪みでもあります。日本は教育水準を上げる代わりに家庭や地域から子どもたちを切り離し,子どもたちの夢を奪ってきたのかも知れません。そして,貧富の差をなくすかわりに,人間が一人ひとり違うのだという当たり前のことをどこかに置き忘れてきてしまったのかも知れません。いじめや登校拒否の問題は,日本だから起こるのだという気がします。」(1996.12.26)
 
 
1)保健体育審議会「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及び
 スポーツの振興の在り方について(中間まとめ)」(文部省,1997),p.1.
2)小稲義男編『新英和大辞典(第5版)』(研究社,1980),p.1598.
3)日本では1980年当時,野球だけがボールゲームのプロスポーツとして存在していた。
4)D.W.Crisfield, Pick­Up Games: The Rules, The Players, The Equipment(New York: Facts On Files,Inc., 1993),pp.xiii­xv.
5)月刊バスケットボール編集部「盛り上げよう 日本のバスケットボール」『月刊バスケット
 ボール』第18巻第11号,1990,pp.76-79.
6)『月刊バスケットボール』第19巻第1号,1991,p.123.壁面取付式バスケットゴール22,800円。
 「これを自宅につけてライバルに差をつけろ!!」と広告掲載されている。
7)中川恵監修『ストリート バスケット』(ナツメ社,1995),p.8.
8)『ストリートバスケット完全ガイドブック』(辰巳出版,1994),pp.6-7.
9) ジャック・ハーシュラッグ/小椋博,二杉茂共訳『ハーフコート・バスケットボール』(道和
 書院,1987)
10)加藤敏弘「トライ・アングル・バスケットボール 活動要項(第3版)」(TRY­ANGLE:会員
 配布資料,1990)に詳しい。
11)加藤敏弘,滝沢武,入江史郎「教材としての「ハーフコートバスケットボール」−体育実践記
 録のまとめを通して−」『茨城大学教育実践研究』第11号,1992,PP.135-145.
12)ジャック・ハーシュラッグ,前掲書,p.6.
13)上掲書,p.7.