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コーチの中のコーチ登場(10/26/1996土)


 今日は,UCLAバスケットボールチームが主催する講習会(クリニック)の日で,8時30分から始まる。僕は8時に家を出た。自転車で大学へ向かっている途中,Mコーチがファーストフードの店で何かを買って,車に乗り込んでいる姿が見えた。自転車に乗っていると丁度交差点のところで並び,Mコーチは挨拶をしてくれた。体育館に着くと丁度Mコーチもやってきて,僕が体育館にすでに到着していることを驚いた様子で「too fast!」と言った。

 ジム・ハリックコーチが控え室から出てきたので挨拶をしたら,ブリヤム・ヤング大学(BYU)のヘッドコーチ・レイドさんを僕に紹介してくれた。僕は日本からやってきたことを告げるとジム・ハリックコーチが僕は全部のシーズンを見に来ているということをレイドさんに伝えてくれ,レイドさんは「それは,いいことだ!」と言ってくれた。すかさずジム・ハリックコーチに今日のクリニックに参加させてくれないか?と尋ねると「OK!」とのこと。これで安心して参加できる。

 片側のコートサイドの客席が引き出されていてその前に講演用の台と黒板とOHPが準備されていた。すでに30人ぐらいの人が集まっている。僕もそこに座ったが,どうやらどこかで受付をしている模様。僕も受付をした方がよいと思い人がやってくる方へ向かった。途中でDさんに出会ったので,挨拶をしてジム・ハリックコーチが今日参加してもよいと言ってくれた旨を告げると,上で受け付けをしてくれとのこと。参加料は必要なのか?と尋ねると受付の女性宛に僕に便宜を図るように手紙を書いてくれ,僕は無料で受け付けを済ませて,Tシャツまでいただいてしまった。本来なら65ドルの参加料が必要である。このクリニックはリーボックが後援している。スケジュールは,午前中にBYUのレイドさん,UCLAのジム・ハリックコーチ,ロサンゼルス・レイカーズのコーチ・ハリスさんの講演が1時間ずつ計3時間あり,昼食後,コーチの中のコーチ,ジョン・ウッデンさんの講演が1時間15分の予定で組んであった。つまり,それまでずっと講演が続くのである。その後UCLAのチーム練習とスクリメージを公開するというもので,終了時刻は午後4時15分になっていた。本当に朝から丸1日の講習会である。参加者は高校のコーチがほとんどで総勢110名ぐらいであった。技術的な内容を高校生も参加してフロアーで指導するのかと予想していたのだが,全く当てが外れてしまった。

 講演の内容は,レイドさんが「バスケットボール・フィロソフィ」で熱っぽく1時間以上語った。僕は話の10%ぐらいしか理解できなかったが,彼が本当にバスケットボールを愛し,子供たちの健全な発育を望んでいる様子が伺えた。次にジム・ハリックコーチは「速攻の段階指導」という題でチームのメンバー5人をモデルにして,実際の指導技術を披露してくれた。さすがに,普段練習を見ているし,ジム・ハリックコーチの語り口がゆっくりなのでこれは60%ぐらい理解することができた。普段細切れで展開されるドリルが実はこういう思想で展開されているのかということがよく理解できて本当に良かった。レイカーズのコーチのトピックは特に決まっていなかったが,フリースローの話から,オフェンスのスペーシング,トランジッション・ディフェンス,スローインフォーメーションまで,現在レイカーズが採用しているシステムを次々と披露してくれた。これでテレビでレイカーズの試合を見るときの楽しみが増えた。話だけだと10%ぐらいしか理解できなかっただろうが,黒板に図を書いたり,実際にUCLAの選手に動きを指示しながらやってくれたので,システム自体はだいぶ理解することができた。

 昼食は,隣のテニスコートの脇にあるクラブハウスで食べた。順番にならんでポテトとパンとミールとリブとチキンを取って食べるのである。飲み物はコーラであった。やっぱりこちらの食生活習慣にはなかなかなじめないが,それでも全部たいらげている自分にだいぶ慣れて来たことを自覚させられた。

 昼食後,体育館に戻るとみんながコーチ・ウッデンさんにサインを求めていた。若い人からかなり年をとった感じの人まで高校のコーチたちが,1列に並んでサインを求めている姿に,あらためてジョン・ウッデンさんの偉大さを感じた。しかし,実際の講演が始まるとそれ以上にウッデンさんの偉大さを目の当たりにすることができた。ウッデンさんはもう85才近い高齢である。昼食場所から体育館の間も階段があるので車で移動しているぐらい,足が悪くなっている。講演の時には当然のことのように椅子が用意されていたが,何と椅子に座るどころか,コート上を動き回ってプレイヤーに指導しているではないか。途中ワイヤレスマイクの電池が切れて音が入らなくなっても,中断する様子も全く見せず,平然と語りながら指導している。僕にはほとんど聞き取ることはできなかったが,コーチ・ウッデンさんの姿を見て,指導するということの神髄を見ることができた。本当にすばらしいの一言につきる。

 チームの練習公開は,普段見ているドリルばかりであったが,改めてジム・ハリックコーチが解説してくれるので,さらに理解を深めることができて良かった。ただ,選手たちは熱が入らずいつもの迫力はなかった。スクリメージもいつもの迫力に欠けていたが,高校のコーチにはやはり新鮮なプレイもいくつかでていたようである。2ゲーム目が終わったところで帰り始める人がでてきたので,3ゲーム目が終わったところで終了となった。予定より45分ほど早い終了であったが,僕には十分収穫があって,非常によいクリニックであった。

 日本でも講習会は各地で行われているが,これだけの人はなかなか集まらない。しかも,講演が中心で朝から夕方までなのである。本当にたいしたものである。