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日本の豊かさと職人気質(10/31/1996木)


 また練習中にMコーチが話しかけてきて「日本にクリニックに行ったことがある」とのこと。「日本の選手をどう思うか」と尋ねたが,どうやら日本の選手をあまり見たことがない様子であった。僕は「ファイティング・スピリットに欠けるように思う」と言うと,彼は「トゥー・マッチ・マネー」と言って去って行った。「日本は金持ちになりすぎてハングリー精神がなくなったのだろう」と考えているようだ。確かに日本には物が溢れ,全体として豊かになってきた。とにかくこちらのように貧富の差が激しくないのである。こちらは金持ちは徹底的に金持ちだし,貧しい人は徹底的に貧しい。だからこそみんなお金を得るために仕事をするのであって,少しでもお金をたくさん得られる職があれば,すぐに転職するのだろう。そういう意味では,本当に日本はみんながそれなりの生活ができるようになり,誰もがそれなりの教育を受けられる国である。いわゆる中流ばかりなのである。どちらかというと社会主義に近い国なのかもしれない。特に日本では職人気質が根強く残っていて,お金を得るために仕事をするというよりも「よい仕事をすること」そのものが生き甲斐みたいなところがあるような気がする。だから,こちらの人はお金を得て,少しでもよい暮らしをすることが第一であるのに対し,日本は家族や暮らしぶりはそこそこで,給料もそこそこでもとにかく仕事一筋人間が溢れてしまうのだろう。終身雇用制度の産物だと思うが,これから日本もだんだんアメリカのように本当の自由競争の渦の中に巻き込まれていくのかもしれない。

 練習の内容は,ジム・ハリックコーチの本を読んだせいもあってずいぶんよくわかるようになっていた。さすがにハロウインの日だけあって,練習が終わると選手もコーチもさっさと帰り支度に取りかかってしまった。僕もさっさと帰ることにした。午後6時前であったが,車が異常に込み合って大渋滞である。ハロウインなのでみんな早く帰ろうとして大渋滞になっているに違いない。大渋滞の隙間を自転車で縫うようにして帰宅した。

 Mコーチと1対1をやったり話しかけられたことが,僕の気持ちを何となく豊かにしてくれているような気がする。突然,調子が悪くなって1週間ほど触る気が起こらなかったパソコンに触ってみる気がして,いろいろといじっていると見事にBIOSの設定画面に入ることが出来,何とハードディスクを1.2Gで認識してくれた。こちらのちょっとした気持ちの持ちようで機械の調子も変わってくるのだから本当に不思議なものである。夜中までパソコンの設定に熱中した。