プレイ感覚の違い他(12/17〜18/1996火)
12月17日(火)
午後シューティングを見学。夜はジャクソン・ステイト大学との試合を長女と観に行った。
12月18日(水)
朝,子どもを病院に連れていく。10時30分から練習。
解任事件の概要(12/18)
前回ご報告した時はヘッドコーチがメディアに叩かれて大変だったという内容だったと思います。それも一件落着し,「コーチも選手も真剣勝負」とご報告しました。
ところが,突然,何の前ぶれもなしに11月5日の夜,大統領選挙のニュースの合間にテロップも流れず,アナウンサーがUCLAのヘッドコーチ「Harrick is OUT」と言うのです。夜11時のニュースで選挙の次のニュースに画面付きで同様のニュースが流れました。翌日の朝の新聞でやっと少し状況がわかりました。何らかの理由で大学側がヘッドコーチ・ジム・ハリックコーチに辞任するか,それとも解任されるかのどちらかを迫ったというもので,今日(つまり6日)に記者会見で明らかにされる,後任にはアシスタントコーチのSコーチが臨時ヘッドコーチとして就任する,というものでした。
記者会見の内容はよくわかりませんでしたが,結局リクルートの件でジム・ハリックコーチがNCAAのルール違反を犯したが,そのことを隠そうと嘘の報告書を提出した。嘘はいけない。だから解任した。というものでした。
いろいろと細かい話はたくさんありますが,今はジム・ハリックコーチは弁護士をたてて解雇は不当だと裁判で争う気配を見せています。もちろん,その後ジム・ハリックコーチの姿をUCLAで見ることはありません。何しろ僕にインビテーションレターを書いてくれた人なので何とか連絡をとろうと思っていますが,状況が状況だけに連絡もとれずに現在に至っています。
チームのその後の様子(12/18)
チームは,この一件でガタガタになってしまい,臨時ヘッドコーチのSコーチが熱心さで何とかしようとしていますが,何しろ若すぎます。日本のように若いときからヘッドコーチ(一人しかいない)をやっていれば話は別ですが,正直なところうまくいっていません。それが痛いほどよくわかるだけに,非常に気を使います。選手の能力が高いだけに僕はなんだかすごくもったいなくてしょうがないのですが,状況が状況だけに出しゃばるわけにもいかず,つかず離れずで見守っています。シーズン開幕前は全米でベスト4にランキングされていたチームが今では24位になっています。公式戦の初戦で延長戦の末1点差で負けたこと,現在全米No.1にランキングされているカンサス大にこてんぱんにやられたこと,その後弱いチーム相手に勝ってはいるものの試合内容があまりにも悪いこと,などがその理由でしょう。なにしろ,試合に勝っているのにその翌日のランキングが1つ下がってしまったぐらいです。つまり,試合内容を見て判断されているわけです。
自分の立場(12/18)
筑波大学の武井先生に,「そんな経験ができるのはおまえぐらいしかいない。ある意味では,すごく勉強になる」と励まされていますが,本当にいろんな意味で勉強させてもらっています。順調に勝ち進むチームを見ているのももちろん勉強でしょうが,全米大学バスケットボール史に残る解任事件を目の当たりにし,そのシーズンのチームにずっと張り付いているのは,確かに僕しかいません。しかも,後任コーチが若くチームがなかなかうまくいかない様子を見ていると,いろんなことを考えさせられます。
チームへの貢献(12/18)
僕はUCLAのコーチではないので,直接チームに影響を及ぼすことはできませんが,実は,目に見えないところで少しずつ着実に貢献していると自分で勝手に思っています。コーチ陣たちは非常に若いのであまり刺激をしないようにしていますが,選手たちには少しずつ働きかけて励ましています。時々バラバラになりそうになりますが,本当にすばらしい選手たちです。この選手たちの能力を本当にうまく引き出してあげれば,確実に全米No.1になれるのですが,今は,選手たちが若いヘッドコーチに気を使ってプレイしています。3月にトーナメントが始まりますが,それまでまだ時間があるのでそこのところをなんとかしたいと思います。自分がコーチをしている時はおそらく感じられないことも,こうして外から見ているといろいろと感じ取れるから不思議です。まあ,コーチたちは生活がかかっているので必死ですし,僕は別に自分の身が削られるわけではないので余裕があるから当然と言えば当然のことですが。
朝練について(12/18)
先週は試験期間で何と朝6時から2時間ほど練習が続きました。選手たちはテーピングをしなければならないので,トレーナーは朝5時には大学へ来ていたようです。ロスではめずらしく雨が続き,僕は夜明け前のロスをずぶぬれになりながら自転車で大学へ通いました。おもしろいのは,選手の何人かが練習に来ないので不思議に思っていたら,何とロッカールームで試験勉強をさせられていました。そんなの練習時間以外に自分でやればよいと思うのですが,こちらの選手は試験勉強も仕事のうちの一つのようです。本当に不思議な世界です。
日米のコーチングの違いについて(12/18)
ここアメリカでもやはりリクルートが非常に大切になっています。10月15日に本格的な練習が始まって,1ヶ月足らずでチームづくりをしなければならないので,一人一人の選手の能力を育成する余裕がないというのも原因かもしれません。そういう意味では,日本の方が時間をかけて選手を育成することができるのでコーチングとしてはおもしろいように思います。おそらくこちらの中学レベルと同じ状況かもしれません。また,こちらはヘッドコーチ以下スタッフがたくさんいてそれぞれ守備範囲が決まっているので,本当にできることとできないことがはっきりしています。たとえば,アシスタントコーチは審判すらできません。笛が吹けないのです。また,選手が鼻血を出していても,トレーナーしか対応できません。コーチ陣たちは身体のことについてはほとんど無知です。その代わり,相手チームのスカウティングや戦術に関しては本当に詳しいです。
プレイ感覚の違い(12/18)
日本にいるときは,アメリカは何でもすごいという漠然とした印象しか持っていませんでしたが,今ではだいぶ具体的に感じ取ることができるようになりました。すごいことはすごいのですが,たいしたことないことはたいしたことありません。正直なところコーチングテクニックやドリルについてはほとんど差がなくなっているように思います。
一番決定的に違ってかなわないのは,選手たちのゲーム感覚です。僕は,一般の学生や職員や町の人たちとピックアップゲームを楽しんでいます。本当にいろいろな人が集まってきますが,どんなにへたくそな人でもとにかく負けるのが嫌いです。そしてどんなにへたくそな人でも勝つためにどうしたらよいかということを心得ています。とにかく大人と子供が一緒になってプレイするので小さい時からその感覚が身に付くのでしょう。
本当におもしろいことですが,一般の人たちはノーマークのランニングシュートをよくはずします。つまり,小さいときからゲームばかりしているので,ランニングシュートをする機会よりも,ジャンプシュートをする機会の方がはるかに多いのです。日本のようにまず,ランニングシュートから練習するのとは違うわけです。
その代わり,本当にへんなフォームでもここぞという時にシュートを決めます。日本人だとここぞと言うときにびびってしまったり,慎重になりすぎたりしますが,こちらの人はそういう時にしっかりとシュートを決めます。おそらくシュートの練習量では日本の選手の方が遥かに上回っていると思いますが,そういうシチュエーションでのシュート経験の違いが出ているのだと思います。
僕はこちらでプレイをするとドリブルもシュートもディフェンスも何でも一通りこなすので,ある程度認められてますが,ここぞと言うときにシュートをはずすので,そういう時には他の人にボールが回ります。このあたりの感覚が一般の人でも本当によく働くのです。