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チーム作りに必要なバランス(2/21/1997金)


・UCLAはUSCにも勝って現在パック10でトップです。僕は試合は勝つと思っていたので,昨日は試合以外のことばかり見ていました。つまり,ポーリー・パビリオンでの試合もあとわずかになってきたので,ゲーム・マネジメントの様子を逐一チェックしていたというわけです。ゲーム中の進行の仕方,警備,応援の手順,音楽や照明の変化,メディアの様子をはじめ,会場のセッティングの様子からゲームが終わってゴミ拾いの様子,ライターたちが夜中まで記事を書いている様子までずっと見ていました。本当はその様子をビデオに納めたいと思ったのですが,いろいろと規定があってそれは来週に持ち越すことになりました。今度のオレゴン・ステイトとの試合の時は,ベースライン沿いに座ってビデオ撮影させてもらえる予定です。シーズン・オフになったら段取りの資料やワーカーの人数,そしてイベント開催にかかる費用などを教えてもらおうと思っています。

 USCとの一戦は地元同士ということもあって超満員でした。メディアもたくさん来ました。こういう華やかなゲームばかりではないことは十分承知していますが,一応日本に紹介する時は華やかな陰でどれくらいの人たちがどういう仕事をしているのかというのを伝えた方が効果的です。単に数字に現れる部分だけでなく,長年蓄積されたノウハウを少しでも伝えたいと思っています。

 井上さんは見事に漫画を通して日本の子どもたちの夢を広げておられます。僕は漫画は描けないので,いつの日か日本の学校の雰囲気を変えて,選手もコーチも観客も一体となって夢を膨らませられるようなゲームを実現させたいと思っています。もちろんアメリカと日本では生活習慣や文化が違いますから,全く同じようになるとは思っていません。ただあまりにも今の日本の学校が窮屈になっていて活気がないのが残念なのです。

 ご存じのようにもともとお祭り好きなのでこういう発想になるのだと思いますが,日本のバスケットボールのレベルアップにもこのことは欠かせない重要な要素です。今の日本のバスケットボール界は目先の利害にとらわれて,足の引っ張り合いばかりです。残念ながら全体をコーディネイトできる人がいません。僕に全部まかせてくれればずいぶんよくなると思うのですが,結局,この世界は力の世界です。実績を積まなければ発言力も高まらず,出る釘は打たれるばかりです。そんなわけで僕が表に出なくてもアイディアやノウハウさえ蓄積しておけば,来るべき時に来るべき人に示せるわけです。

 今はここアメリカのよいところや悪いところを感じながらアイディアを練っています。今回いろんな事件に遭遇して,ますます考えさせられていますが,僕にとっては本当に好都合です。そんなこんなでいろんな人の話を伺いながら,さらにいろいろと考えを深めていけたらよいと思っています。また,おもしろい話しがあったら教えて下さい。

 パット・ライリーさんの話しは,本当におもしろく読ませてもらいました。特に「タレントとデザインとの緊張状態」という表現は,まさしくコーチの勘どころをわかりやすく説明しているなぁと思いました。ちょっと話しが難しそうで嫌ですが,僕の理解は両者の理想的な関係は関数でいうところの反比例の関係にあると思っています。才能の割合が小さければデザインの割合が大きくなる,才能の割合が大きければデザインの割合は少なくなるというものです。才能の割合が大きいのにデザインの割合も大きくすると反比例の曲線から大きくはずれます。そうするといろいろと歪みが生じてしまうのです。また,才能の割合が小さいのにデザインの割合も小さくしてしまう。これもうまく機能しません。つまり,両者のバランスがうまくとれた時にチームとしてうまく機能するのだと思います。

 「タレント」を持って生まれた能力に限定するのか,それとも努力して獲得できるものとするのかによって少し話しが変わりますが,コーチはいつも選手たちの様子を見てこの微妙なバランスをとっています。僕は,誰もが宝石になれるとは思いませんが,ただの石っころでも磨けばそれなりに美しく輝くと信じて,タレントを開発しつつデザインしています。これはビジネスとは縁遠い大学のチームだから許されることだと思います。

 ちなみに今のUCLAの若いコーチはタレントに恵まれていながら,なおかつデザインの割合も大きくしようとしています。これは両者が正比例するものだと思っているコーチによくあることです。才能のある選手を集めて,自分の頭の中で描いている最高のデザインを実行する。そうすると本当に強くなると思っているのです。僕は幸いにも今までタレントに恵まれたことがないのでこの過ちに陥ることはありませんでした。それでも微妙なバランスが崩れてチームに歪みが生じたことが何度かあります。

 現在のUCLAは選手たちが適当なところで息抜きをしてバランスをとっているので表面的な歪みは出ていませんが,チームとしては確実に歪みが生じていると思います。彼の言っていることやデザインしていることは決して間違っていないのですが,それは僕のように石っころを相手にしているときに有効な手段です。僕にはよい勉強になっていますが,今のUCLAでは宝石を砕こうとしているようで,ちょっともったいない気がします。

 メディアはいろいろと騒いでいますが,コーチという立場からは,スティーブ・ラビンコーチの評価は来年度以降に持ち越したいと思います。彼の身に起こった変化を察すれば,上記のような状態になることもよく理解できます。また,現在の選手たちもジム・ハリックコーチが集めて育てた選手です。ですから,今年の成績はスティーブ・ラビンコーチの真の評価にはなりません。

 もちろん,僕は全米No.1になって欲しいと思っています。そうすれば僕が日本に帰ったときの受けも良くなるし,スティーブ・ラビンコーチも32才の若さでメディアに騒がれるでしょう。選手も次のステップに大きく躍進できる可能性が高まります。UCLAも十分採算が合うはずです。

 ただ,長い目で見ると本当に今年全米No.1になるのがみんなのためになるのかどうか僕には判断できません。もちろんそう簡単にNo.1になれるとは思っていませんが,全くない話しでもないと思っています。