4000キロの旅を振り返って(4/2/1997水)
・(卒業生への手紙より)
卒業おめでとう。本当におめでとう。これからは,「母校」として茨城大学を大切にして下さい。仕事も大変だと思いますが,バスケット部の方は気分転換に利用するとよいと思います。もっともOB・OGになると気分転換にならずに,現役のふがいなさを見て苛立つことの方が多いようです。それでも後輩たちをかわいがってやる気持ちを永遠に忘れないようにして下さい。年が離れれば離れるほどそうなりがちですが,現役の時に大なり小なりお世話になったOB・OGになったのですから,恩返しのつもりでお願いします。直接知っている現役がいる間は,若いのにお金をたくさん使うOB・OGがいますが,あまり得策ではありません。若いときはお金がないのだから,年をとって余裕ができたらビック・マネーをお願いします。もっとも年をとったら自分の子どもにお金がかかって大変ですが。
さて,こちらは大学バスケットボールのシーズンが終わりました。UCLAは全米ベスト8止まりでしたが,僕はファイナルを見ることができました。NABCというアメリカのバスケットボールのコーチ協会の会員になって12年目という実績が効いて,ファイナル4の当日の朝,アンクレイムドチケットを正規の値段で購入することが出来たのです。16万人が応募して8000人しか手に入れることができなかったチケットを,何のコネも使わずに自分の力で手に入れた日本人はおそらく僕が最初でしょう。ちなみに日本から来た実業団のコーチはダフ屋から5倍の値段で手に入れていました。決勝は,これも何の因果か唯一UCLAのアウェイゲームを見に行った先のアリゾナ大学とケンタッキー大の間で行われました。延長戦の末,応援していたアリゾナ大学が優勝しました。どちらのチームもすばらしいディフェンスで本当に好ゲームでした。ちなみにUCLAはパック10というカンファレンスの試合で,このアリゾナ大学に2戦2勝しています。
このファイナル4に向けて家族共々3月21日に東海岸へ飛行機でとび,レンタカーを借りてワシントンDC,ニューヨーク,スプリングフィールド,ナイアガラ,シカゴ,インディアナポリスと2487マイル(約4000キロ)走りました。昨日(4月1日),シカゴから飛行機で帰ってきたばかりです。ニューヨークではニックスのホームコートのマジソンスクウェアーガーデンの見学ツアーに参加し,バスケットボールチームのロッカールームを見てきました。ユーイングのロッカーもあり,ガイドの人が誰かのバッシューを回してくれたのでそれを持った子供の記念撮影もしました。スプリングフィールドは,バスケットボール発祥の地で「バスケットボールの殿堂」を見てきました。100年ほどの歴史ですが,本当にたくさんの展示を見てバスケットボールの歴史を感じてきました。シカゴではブルズの本拠地「ユナイテッド・センター」で試合を見ました。ジョーダンの引退が噂されていますが,もし今年限りということであれば,今回の観戦は貴重なものになるでしょう。また,ジョーダン・レストランにも行ってきました。子連れなので食事はしませんでしたが,ちょっとしたおみやげを買い込んできたので楽しみにしていて下さい(ただし,帰国後早く取りに来ないとなくなるかも)。ファイナル4では,ファミリーファンジャムなどの催しやコーチのクリニックなどにも参加しました。本当によくこれだけの人が世界中から集まってくるなぁと感心させられました。アメリカの広さと西海岸と東海岸の違いなどを実感することができて学ぶことがたくさんありました。その分お金もたくさんかかりました。
これから残りの期間,シーズン中の出来事やいろいろと疑問に思ったことを調査してまとめなければなりません。シーズン中のような時間的な制約(朝練の時は,本当に朝6時前に大学へ行ったこともあるし,練習時間の変更が知らされず4時間以上待ったこともある)はなくなりましたが,今回の研修が本物になるかどうかは,残りの期間にかかっています。今回の旅行でお金を使い果たしてしまったので,腰を据えて取り組もうと思います。
英語もろくに話せないのに,これだけいろいろな経験ができたのもバスケットボールを続けてきたおかげです。たかがバスケットボールですが,このバスケットボールを通して本当に世界が広がっていくのが実感できます。言葉には壁がありますが,バスケットボールには壁がありません。世界共通のコミュニケーションの手段としてバスケットボールが持つ意味はかなり大きなものがあるように感じます。
もちろん,バスケットボールが全て素晴らしいことばかりとは限りません。バスケットボールがビジネスであるここアメリカでは,当然暗い部分もあります。日本ではビジネスになっていないのでこちらほどの厳しさはありませんが,その分中途半端が生み出す悲劇も絶えません。今回の渡米で最初に起こったヘッドコーチの解任事件は,ここアメリカバスケットボールの現状を知り,日本の将来を考えるには,十分すぎる出来事でした。偶然,ファイナル4の会場で解任されたジム・ハリックコーチと出会い,再び会う約束をしました。もしかすると僕は世界中の誰よりもアメリカの大学バスケットボールが抱えている問題点を知りうる重要な位置にいるのかも知れません。僕自身にとっても非常に重要な意味を持つ再会になるような気がします。どうなるのかは,帰国後のお楽しみに。では。